2025年5月12日、米中両国はスイス・ジュネーブでの閣僚級貿易協議において、相互に課していた追加関税を大幅に引き下げることで合意しました。この歴史的な合意は世界の金融市場、特にS&P500に大きな影響を与えています。今回は、この貿易協議の内容と今後のS&P500の動向について詳しく分析していきます。
米中貿易協議の合意内容
関税引き下げの詳細
米中両国は相互に発動していた関税率を115%ポイント引き下げることで合意しました。具体的には、アメリカは中国に対する関税率を145%から30%へ、中国はアメリカに対する関税率を125%から10%へと大幅に削減します。
この合意には90日間の一時停止措置も含まれており、トランプ大統領が「解放の日」と名付けた4月2日に発表した追加の24%の関税を90日間停止することになります。
両国は経済・貿易関係に関する協議を継続するためのメカニズムを構築することでも合意しました。中国の何立峰副首相は、双方が「重要なコンセンサス」に達し、新たな経済対話の枠組みを設けることを表明しています。
今後の協議枠組みベセント財務長官は記者会見で、米中間の貿易収支の不均衡を是正するための購入協定を結ぶ可能性があると述べましたが、為替に関する議論は行われなかったとも明言しています。
S&P500構成企業への米中貿易協議の影響
全体的な影響
米中貿易協議を巡る進展や関税政策の変化は、S&P500構成企業に大きな影響を与えました。協議前はトランプ大統領の強硬な関税発言を受けて警戒感が強まり、S&P500全体で小幅な下落や横ばいの動きが見られました。しかし、協議進展への期待が高まると、投資家心理が改善し、先物市場では1%超の上昇を記録する場面もありました。
セクター別の影響
- 情報技術・ハイテク株
マイクロソフトやアップルなどの大手ハイテク株、エヌビディアなどの半導体株が属する情報技術セクターは、18%高と最も上昇率が高く、米中協議進展の恩恵を強く受けました。AI半導体の輸出規制緩和も追い風となりました。 - エネルギーセクター
原油価格の上昇を背景にエネルギー株も堅調で、週次では1.1%高となり、主要11セクター中トップの上昇率となりました。 - 自動車・同部品、不動産
自動車関連や不動産も上昇しました。 - 医薬品・バイオテクノロジー、耐久消費財・食品関連
一方で、医薬品・バイオテクノロジー、耐久消費財・アパレル、食品・飲料・タバコなどは下落しました。医薬品や半導体など一部業種は関税引き下げの対象外となっており、引き続き不透明感が残っています。
個別企業の動き
- マイクロソフト、メタ、アップルなど
好調な決算やAI関連の成長期待から買いが集まりました。 - 一部企業は決算悪化で下落
旅行代理店エクスペディアなど、一部企業は四半期決算が市場予想を下回り大幅下落となる例もありました。
投資家の動きと市場心理
- 米中協議の進展期待が高まると、リスク選好姿勢が強まり、特に景気敏感セクターやグロース株への買いが目立ちました。
- ただし、協議内容やインフレ指標など不透明要因も多く、週末には持ち高調整の売りも出ており、全体としては慎重な姿勢が続いています。
まとめ
米中貿易協議の進展は、S&P500構成企業のうち、特にハイテク・半導体・エネルギーなどの景気敏感セクターにプラス材料となりました。一方で医薬品など一部業種は引き続き慎重な見方が残り、全体としては協議の行方や経済指標を見極めながらの展開となっています。
S&P500への即時的影響
市場の反応
この合意を受けて、S&P500先物は5月12日のアジア市場で1.2~1.4%上昇しました。これは投資家が米中間の緊張緩和を好感したことを示しています。
月曜日の取引では、S&P500先物だけでなく、ダウ先物も2%以上、ナスダック100先物は3.8%上昇するなど、幅広い指数で上昇が見られました。
投資家心理の改善
4月に発表された「相互関税」直後には、S&P500が大きく下落する場面もありましたが、今回の合意により市場心理は大幅に改善しています。海外投資アナリストは「関税の引き下げは約50%になると予想していたので、結果は予想を上回った。これは両国経済や世界経済にとって非常に良いニュースであり、短期的な世界供給網への影響や投資家の懸念が大幅に和らぐだろう」とコメントしています。
S&P500の技術的分析と今後の見通し
テクニカル分析
現在のS&P500は上昇トレンドを維持しており、3本の移動平均線も上昇トレンドの継続を示唆しています。直近の日足チャートでは、5,570~5,600ゾーンに強い下値サポートが形成されており、これを下抜けない限り下値余地は限定的と見られています。
一方、上値は5,720-30、5,770-80に強い抵抗があり、特に200日移動平均線が5,748に位置していることから、これらを一気に突破するのは容易ではないでしょう。今週の予想レンジは5,380.14~5,932.34とされています。
短期的な見通し
S&P500は現在、上値を試す動きが続いています。5,770-80を上抜けて終えれば一段の上昇が期待できますが、5,500を割り込んで終えた場合は下値リスクが高まります。
短期トレンドは「強気」の流れを維持していますが、5,500を割り込むと、トレンド変化の基点となる5,400台の足元を固め直す動きが強まる可能性があります。
中長期的な展望
米中貿易協議の進展は、S&P500にとって追い風となりますが、今後の動向は以下の要因に左右されるでしょう:
- 関税交渉の継続的進展: 90日間の一時停止後、さらなる関税引き下げが実現するかが焦点となります。
- インフレ指標: 13日に発表される4月の消費者物価指数(CPI)など、インフレ関連の指標も市場の方向性を左右します。
- FRBの金融政策: 利下げ見通しが後退しており、FRBの姿勢が株価に影響を与える可能性があります。
投資家へのアドバイス
短期的な投資戦略
現在の市場環境では、上値トライの動きが継続すると予想されるため、5,700台に実体を乗せて終えれば、さらなる上昇が期待できます。しかし、5,500を割り込むと下値リスクが高まるため、このレベルを意識した取引が重要です。
上値抵抗は5,700-10、5,720-30、5,760-70、5,800-10に、下値サポートは5,650-60、5,620-30、5,600-10、5,560-70、5,520-30に位置しています。
中長期的な投資アプローチ
不透明な環境下では、収益性や成長性が確認された好業績企業への選別投資が有効です。特に、米中関係の改善から恩恵を受ける可能性のある半導体セクターなどに注目が集まっています。
また、S&P500グロース指数が最近アウトパフォームしていることから、バリュエーションが下がった好業績銘柄を中心に買いが入る傾向が見られます。
まとめ
米中貿易協議での関税引き下げ合意は、S&P500にとって明らかなポジティブ材料となっています。市場はこのニュースを好感し、先物は大幅に上昇しました。テクニカル面でも上昇トレンドが維持されており、短期的には上値を試す展開が予想されます。
ただし、この合意は根本的な対立解消ではなく、90日間の一時停止措置に過ぎないため、今後の交渉進展を注視する必要があります。また、インフレ指標やFRBの金融政策など、他の要因も市場の方向性に影響を与えるでしょう。
投資家としては、5,500を重要なサポートレベルとして意識しつつ、好業績企業への選別投資を心がけることが重要です。米中関係の改善から恩恵を受ける半導体セクターなどに注目し、バランスの取れたポートフォリオ構築を目指しましょう。
S&P500の値動きは、世界経済の最新ニュースと密接に連動しています。投資家も一般読者も、経済指標と国際情勢をしっかり追い続けることが重要です。
本記事が皆さまの投資判断や経済理解の一助となれば幸いです。最新情報は引き続き当ブログで発信していきますので、ぜひブックマークを!